司法書士をしているとよく聞く相談です。
今回は、権利証を紛失した場合について解説していきます。
権利証とは
権利証とは、所有権登記名義人(登記簿に所有者として記載されている人)である証明書です。登記簿に所有者として記載されている者の氏名住所と権利証を所持している人の氏名住所が同じであれば、その人を不動産の所有権登記名義人だとしています。そして、裁判の判例(最判昭和34・1・8)では、所有権登記名義人を不動産の所有者だと推定しています。
世間一般的には権利証と呼ばれていますが、現在の正式名称は「登記識別情報通知」といいます。この通知に記載されている12桁のアルファベットと数字が重要になります。
登記識別情報通知は下記のような外観をしています。
権利証がなくて困る場面とは
不動産を売却、贈与又はお金を借りる際に抵当権をつける場合などです。
この場合、権利証が必要になります。
権利証がいるかの判断は、対立当事者がいるかどうかで判断するとわかりやすいです。
対立当事者とは、例えば、不動産の売買なら、売主と買主。贈与なら、贈与者と受贈者。抵当権を設定するなら、金融機関と不動産の所有者です。
上記はいずれも利害が対立している関係にあります。これらの場合、損をする人(例えば、売主、贈与者、不動産の所有者などです。以下「登記義務者」と記載します)の権利証が必要になります。
※ただし、一部例外もあります。抵当権の債務者を変更する場合は権利証が必要ではないです。この手続きは、抵当権の内容である債務者を変更するにすぎないためです。
権利証がいらない場合もあるのか
もちろんあります。例えば、亡くなった方の不動産の名義を変える場合、権利証は必要ありません。なぜなら、対立当事者が存在しないからです。不動産の所有者はすでに亡くなっており、対立関係にないからです。
権利証を紛失した場合
権利証を紛失した場合の対応としては、次の3つの制度が利用する必要があります。
①事前通知制度を利用する
事前通知制度とは、権利証をつけずに手続きをすると、法務局(手続きを管轄する行政機関)から登記義務者宛に本人限定郵便(受取には身分証明書の提示がいる郵便)で事前通知という書類が届きます。届いた事前通知に署名と実印を押して、通知が発送された日から2週間以内に法務局に返送又は持ち込む必要があります。
この期間をすぎると手続きは却下されてしまいます。手続きを急ぐ場合やどうしても却下されるとマズイ場合はこの制度は利用できません。
事前通知は下記のような外観をしています。
②本人確認情報を利用する
本人確認情報とは、司法書士が登記義務者と直接面談をし、間違いなく本人であると確認することで権利証を省略することができる制度です。権利証の代わりに、司法書士が作成した本人確認情報という書類を申請の際に提出します。
この制度は、一見すると簡単なように感じられます。
しかし、登記義務者と面談する司法書士にはとても重たい責任がかかる制度なのです。もし、この制度を利用して、登記義務者が本人ではなかった場合、司法書士には「2年以下の懲役(拘禁刑)又は50万円以下の罰金が処されます。(不動産登記法第160条)」
そのため、この制度を利用する場合、司法書士報酬が発生するのです。報酬は事務所ごとにより異なります。弊所は、5万5千円(面識なしの方)を頂いております。面識がある場合、3万3千円になります。
ちなみに①の事前通知は法務局が行うため、無料です。本人確認情報は司法書士が作成するため、面談さえできれば、即日発行ができます。
③公証人による認証を利用する
最後に、公証人による認証制度があります。公証人が登記義務者と直接面談し、間違いなく本人であると確認し、申請書又は委任状(司法書士に依頼している場合)に認証をもらう制度です。その認証をもらった書類を申請の際に提出します。
私は、まだこの制度を利用したことはありません。費用は数千円程度かかります。公証人との面談の予約を取る必要があり、公証人が忙しいとすぐに予約を取れないこともあるため、手続きを急ぐ場合には利用できません。
最後に
権利証は普段見る書類ではありません。そのため、どこに保管してあるか忘れてしまうことも多いです。1か月で紛失した方もいらっしゃいました。
いい機会なので、自宅の権利証があるか調べてみてください。もしかしたら、アナタの権利証も・・・。