遺言のすすめ

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今回は、遺言書について解説していきます。※以下の文章で、遺言者(いごんしゃ)と記載されている者は、遺言をする人を指します。

遺言書を書いた方がいいのか

司法書士
司法書士

私は遺言書を書くことをおススメしています。
私が考える遺言書を書いた方がいい理由は、次の2つです。

ちなみに私の母親もすでに遺言書を書いています。

①特定の相続人や相続人以外の第三者に相続財産を残したい

遺言書を書いた方がいい理由①は、特定の相続人や相続人以外の第三者に相続財産を残すことができることです。

遺言書がない場合、相続財産は民法が定める相続人が遺産分割協議または法定相続分で遺産を相続します。もし、次のようなことを考えていた場合、遺言書がなければその思いは実現しません。

  • 特定の相続人に遺産を多く残したいと考えた場合
    • 例えば、子どもがいない夫婦で配偶者に多く残したい
    • 例えば、再婚して今の配偶者との間の子に多く残したい
  • 相続人以外の第三者に遺産を渡したいと考えた場合
    • 例えば、長男の嫁にも残したい
    • 例えば、内縁の配偶者にも残したい

②相続発生時の不要な争いを防ぎたい

遺言書を書いた方がいい理由②は、相続が発生した際に、遺産をめぐる骨肉の争いを防ぐことができます。

遺言書があると、相続人全員が同意しない限り(相続人以外の第三者が遺産をもらう場合はその第三者の同意も必要、遺言執行者がいる場合は遺言執行者の同意も必要)、遺産分割をすることはできません。そのため、遺言書を書いておけば、基本的には遺言者が希望した通りに遺産を残すことができます。
遺言書がなかったため、遺産の分け方について相続人間で協議がまとまらず、家庭裁判所に調停を申立てた件数が年々増加傾向にあります。
令和5年度は、約15,000件の申し立てられています。遺言書を書くことで、こうした争いの火種を事前に消しておくことができます。

令和5年 司法統計年報(家事編)「家事審判・調停事件の事件別新受件数全裁判所(遺産の分割に関する処分など)」

遺言の種類にはどんなものがあるのか

遺言には様々な形式が存在しています。それぞれ異なる特徴があり、用途や性質が異なります。まず、普通の方式と呼ばれる遺言が3種類、特別の方式と呼ばれる遺言が4種類あります。特別の方式の遺言は、司法書士でも取り扱うことがほぼありません。それぐらいレアな遺言です。

普通の方式の遺言

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、ご自身で遺言書を自書する遺言になります。自筆が必要な部分は、遺言本文、日付、氏名を自書し、押印します。財産目録については、自書ではなくパソコン等で作成することも認められています。ただし、その場合、財産目録のすべてのページ(裏面にも記載があれば裏面)に署名捺印が必要になります。
遺言書の保管制度を利用しない場合は、紛失などのリスクがあります。遺言書作成の費用は、ご自身で遺言書を作成するため、費用はかかりません。

公正証書遺言

公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝え、それに基づいて、公証人が遺言書を作成する遺言になります。作成された遺言書の内容が正確なことを確認し、遺言者と証人が遺言書に署名捺印をします。
遺言書を公証役場で保管するため、紛失などのリスクがありません。遺言書作成の費用は、公証人の手数料が発生します。公証人の手数料は、遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、その額を下記の表に当てはめて、手数料を求めて、最後にそれらの手数料を合算します。

日本公証人連合会ホームページより抜粋

例1)配偶者と子ども2名が相続人の場合
配偶者に5,000万円、子ども各1名に2,500万円を相続させる公正証書遺言をするときの
公証人の手数料は、下記のように計算します。
29,000円(配偶者)+23,000円(子1)+23,000(子2)+遺言加算11,000円+用紙手数料数千円

例2)例1と同じ事案で配偶者が寝たきりで公証人の出張が必要な場合
(29,000円(配偶者)+23,000円(子1)+23,000(子2))×病床加算1.5+日当10,000円(4時間以内)+遺言加算11,000円+用紙手数料数千円 

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言の存在と内容を秘密にできる遺言になります。遺言書は、自書でもパソコンでも第三者の代筆でもかまいません。ただし、遺言書に遺言者が自書で署名捺印をする必要があります。その遺言書を封筒に入れ、遺言書に押印した印鑑をもって、封印をします。
封印をした遺言書を、公証人1人および証人2人以上の前に提出し、遺言者が自己の遺言書である旨と筆者の氏名住所を申述します。その遺言書が提出された日付と遺言者の申述(自己の遺言書である旨と筆者の氏名住所)を遺言書が入っている封筒に公証人が記載し、公証人、証人、遺言書の全員で同じく封筒に署名捺印します。遺言書の保管は、ご自身で行うため、紛失などのリスクがあります。遺言書の保管制度も利用できません。

特別の方式の遺言

特別の方式の遺言は、遺言者が普通の方式の遺言をすることができるようになった時から6か月間生存すると、無効になります。

死亡危急時遺言

死亡危急時遺言は、疾病その他の事由によって死亡の危急が迫っている者が利用できる遺言になります。証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を伝えます。その証人は、遺言の内容を筆記し、遺言者と他の証人に読み聞かせまたは内容を確認してもらいます。各証人が遺言が正確なことを承認した後、遺言書に署名捺印します。遺言書作成後、20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に遺言者がその遺言を真意でしたものかの確認を請求する必要があります。その請求をしていない死亡危急時遺言は、効力を生じません。

伝染病隔離者の遺言

伝染病隔離者の遺言は、伝染病のため行政処分によって交通が絶たれた場所にいる者がする遺言になります。

在船者の遺言

在船者の遺言は、船に乗っている者がする遺言になります。

船舶遭難者の遺言

船舶遭難者の遺言は、船舶で遭難した人がする遺言になります。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

普通の方式の遺言、特別の方式の遺言を見てきましたが、ここからは実務でよく利用される自筆証書遺言と公正証書遺言に焦点を当てて、それぞれの遺言の特徴をみていきます。

自筆証書遺言公正証書遺言
遺言ができる年齢15歳以上15歳以上
成年後見を受けた者が遺言ができるか意思がはっきりしている状態で、医師二人以上の立会があればできる意思がはっきりしている状態で、医師二人以上の立会があればできる
遺言書を作成する人遺言者本人公証人
証人の要否不要2人以上必要
自書する箇所遺言書の本文、日付、氏名、財産目録の氏名を自書氏名のみ自書
遺言書作成の費用なし公証人の手数料がかかる
保管場所自宅等
ただし、法務局の保管制度を利用した場合は法務局
公証役場
検認の要否※1
必要
ただし、法務局の保管制度を利用した場合は不要
不要
封筒に封印がしてある遺言書の開封家庭裁判所での開封が必要そもそも封印がされない
遺言の撤回方法従前の遺言書を破棄する撤回遺言公正証書を公証役場で作成する

※1検認とは、相続が発生した時の遺言書の状態を確認する手続きです。この手続きは、相続が発生した後に、家庭裁判所で行います。のちに遺言書がだれかの手により偽造または変造されないように物理的な外観を保全します。遺言書の有効無効は確認されません。

最後に

遺言書を書く人は、まだそれほど多くないと思います。必要だと思っていても、公正証書遺言をするには敷居が高く感じるかもしれません。そんな時は、まず自筆証書遺言を作ってみることをおススメします。

法務省の自筆証書遺言保管制度に関するサイトに自筆証書遺言の書き方が記載されています。ご興味のある方はコチラをご覧ください↓