相続人等株式売渡請求について

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中小企業の株主の一人が亡くなり、相続人が株式を相続してしまった。その相続人は会社とはなんの関係もないので、相続した株式を会社で買い取りたい。しかし、相続人は買い取りを望んでいない…そんな場面で使える「相続人等株式売渡請求」について、解説していきます。

相続人等株式売渡請求とは

相続や遺贈等で株式を取得した相続人に対して、その株式を会社が強制的に買い取ることができる会社法の規定です。(会社法第174条)

相続人等株式売渡請求を行使するための条件

司法書士
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この請求は、株式を相続した人に与える影響が大きいです。そのため、クリアしなければならない条件がいくつかあります。
一定のリスクもあります。

この請求をするには、➊から❻までの条件をすべて満たす必要があります。

  • 相続、遺贈によって株式を相続した人がいる。
  • その株式が譲渡制限株式である。
  • 相続人等株式売渡請求ができる旨を定款で定めてある。
  • 株主総会で相続人等株式売渡請求を行使することを可決する。
  • 会社が相続、遺贈を知った日から1年以内に売渡請求をする。
  • 相続人に支払う株式の買取代金が売渡請求をする日の分配可能額を超えていない。

➊相続、遺贈によって株式を相続した人がいる

株主の中に亡くなった人がいる場合、この規定の適用のスタートになります。
そのため、会社は株主が誰なのかを正確に把握する必要があります。

司法書士
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法律では、株主名簿の作成が義務になっています。(会社法第121条)
もし作成していない場合は、100万円以下の過料を請求される可能性もあります。(会社法第976条1項7号)

➋その株式が譲渡制限株式である

譲渡制限株式とは、株式を譲渡する場合、株主総会等の承認が必要になる株式のことです。多くの中小企業にこの譲渡制限株式の規定が設定されています。この規定が設定される目的は、会社にとって好ましくない人が株主になることを防ぐことです。

自社に譲渡制限株式が設定されているどうかは、会社の登記簿を見ることで確認できます。
↓下記のような記載があれば、譲渡制限株式が設定されています。

❸相続人等株式売渡請求ができる旨を定款で定めてある

定款に下記のような規定を置く必要があります。

(相続人等に対する売渡しの請求)
第〇条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

まだ定款に上記の規定がない場合、定款変更する必要があります。定款変更は相続発生後にすることもできるため、急いで変更する必要はありません。

定款変更に必要な議決権についてはコチラを参考にしてください。

❹株主総会で相続人等株式売渡請求を行使することを可決する

相続人等株式売渡請求を株主総会で決議する必要があります。可決に必要な議決権は、67%以上が必要になります。

相続人株式等売渡請求のリスク

相続人等株式売渡請求を株主総会で決議をする場合、株式を相続した人はこの株主総会で議決権を行使できません。

これが最大のリスクになります。

例えば、社長が亡くなった場合、社長の相続人は相続人等株式売渡請求を決議する株主総会で議決権を行使できなくなります。
社長以外の株主が社長一族を追い出そうと画策し、相続人等株式売渡請求を行使するために株主総会を開いた場合、社長の相続人はその株主総会で相続人等株式売渡請求を否決するために議決権を行使できなくなるのです。

❺会社が相続、遺贈を知った日から1年以内に売渡請求をする

相続人等株式売渡請求には行使期間があります。行使期間は会社が相続、遺贈を知った日から1年以内です。

❻相続人に支払う株式の買取代金が売渡請求をする日の分配可能額を超えていない

分配可能額とは、配当をする場合株式を買い取る場合、株主に流出する金額の上限です。正確な分配可能額の計算はとても複雑です。

司法書士
司法書士

分配可能額の正確な計算はとても複雑です。ちなみに私はわかりません…。
う、うぅ(泣)
とりあえず、おおまかな金額を押さえれば十分です!!

ココでは大まかに分配可能額がいくらなのかを確認する指標を示します。

分配可能額 = その他資本剰余金 + その他利益剰余金 ー 自己株式

買取代金が分配可能額を超えている場合、会社は株式を買取ることはできません。(会社法第461条1項5号)
大企業でも分配可能額違反をしてしまうことがあります。ご注意ください。

日本経済新聞:2023年6月2日付インターネット記事

最後に

会社法に様々な規定が用意されています。皆さんの会社にとってベストな規定をうまく活用してみてはいかがでしょうか。会社法について、もっと知りたい方はおススメ本を本屋で購入するか、津市のみずたに司法書士事務所にご相談ください。